La vie aventureuse de D'artagnan ~ダルタニャン物語 ④ 人物紹介 アラミス~ [シリーズで考える深い考察]
このシリーズも4回目です。
最初は全然読んでいただけなかったようで
わたくしばっかりが面白くてみなさま、面白くないんだろうなぁ、としょんぼりしてましたが、
結構アトスの回は、評判よかったみたいで気をよくしています↑
みなさまありがとうございます! 本当にうれしいデス。
さて、今日はアラミスですね。
アラミスは国王付銃士隊イチの美男子、ということになっています。
近衛隊の中でも精鋭中の精鋭ばかりが集まる銃士たちのなかでも
ひときわ生彩を放つ美貌の貴公子なのですから、よっぽど男前だったのでしょうね。
・・・・・でも~、この人は、銃士隊の四人の仲間のうちでは一番クセがあるというか
難しい人ですね。
アラミスをコトバで表現するなら、「神の代理人にして権謀術数の大家」、というところでしょうか。
アラミスはやっぱり大貴族の息子で本当の名前をデルブレー卿といいます。
たぶん、長男ではなく、聖職者となるために生まれた次男、三男あたりなのでしょう。
この人もアトスと同じように、大貴族の家に生まれたゆえの
貴族的な典雅さとか、教養などを備えておりますが、
違うところは、アトスは真から心がまっすぐで無欲なのに対し、
狡猾で野望を抱いているというところでしょうか。
しかも実は神父なのに・・・・。
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いや、神父だからこそ、アトスのように幼子のように素直な信仰を持ちえないのかもしれないです。
アトスは生まれたときからラ・フェール伯爵の跡取りだったし、そこに熾烈な兄弟の争いは
なかったわけですね。
しかし、アラミスはどんなに美しく生まれついて才能豊かであっても、
長男ではない、というただその一点の違いだけで、家督を譲ってもらえないのです。
たぶん、そのことを恨んだでしょう・・・・。
自分の境遇に素直に「そうですか」と従えなかったでしょう。
だから、そもそも生まれたときからの出発点がアトスとアラミスは違うのです。
アラミスはたぶん小さいときは女の子のようにやさしげなお顔の美少年だったから
親は将来は聖職者に、と望んだのかもしれませんが、
アラミスは実は心の奥に自分でも御しがたい獣を住まわせていたのです。
アラミスは銃士隊に入る前、神学生だったのですが、それにもかかわらず
決闘して、人を殺しているのですね。
それで神学校にいられなくなって、名前を伏せて銃士隊へ入隊。
本来ならば、軍人になったほうがよかったのかもしれませんが、
しかし、軍隊というところは上官の命令は絶対ですね。
陰謀という情熱に取りつかれたアラミスには、やはり軍隊生活は無理でした。
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アラミスは銃士隊をやめた後、どこをどうやったのかはわかりませんが
やはりきちんと神学校を卒業して神父になっておりました。
しかし、さすがアラミスというべきか、その後、所属するのが「イエズス会」なのですね~
イエズス会というと日本人はすぐ「フランシスコ・ザビエル」→「偉い人・聖人」という連想をしがちですが、
ヨーロッパで「イエズス会」っていうと、実は「悪の結社」と相場は決まっているのです。
たしか、ダ・ヴィンチコードの「イルミナティ」って結社も「イエズス会」をモデルにしているか、
「イエズス会」から派生した秘密結社なのだと思います。
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アラミスはそういった、カトリック教会という大きな力をバックに権力を持とうとするんですね。
ですから、アラミスは極秘裏にニコラ・フーケと手を組み、
フーケの所領のベル・イールに難攻不落の要塞を築き、
虎視眈々と宰相の地位を狙っていたに違いないのです。
ですが、マザラン亡きあと、自分がその後釜になろとするも
宰相や摂政を排して、
親政を執って自らのやりたいようにやるルイ14世を疎ましく思うようになります。
初めは、マザランのように宰相の地位を狙っていたアラミスですが、
ルイはもはや宰相を必要としていないと見てとるや、アラミスは二つのプランを立てます。
二つ同時には実現できませんが、一つがダメでも一つが実現できればそれでいい。
①ルイは実は双子のフィリップがいて、フィリップ王子はバスティーユに終身監禁される身だった。
(これがあの有名な「鉄仮面」伝説のもとです)
だが極秘裏にその二人を入れ替え、 影の実権は自分が執ろうというもの。
②アラミスはまた、前区間長にその人柄を見込まれ(?)イエズス会の総区官長という地位を踏襲した。
そして、現在の法皇を暗殺して自分が法皇の地位に就き、フランスだけでなく、全ヨーロッパのカトリック教国を
自分の手中に収めようと野望を抱いてもいた。
などという、とほうもない策略をめぐらしておりました↓
アラミスはアトスとちょっと考えが違っておりまして、「従容としてその運命に従う」ということを「是」として
認めない人です。
というか、プライドが二番手、三番手で甘んじていることを断じて許さないのです。
運命は己が切り開いてこそ。
あ~~んと大きく口を悠長に開いているだけでは飢えは治まらないというのです。
自らが食べ物を探すという能動的な行動を取らなければ。
勝機に向かって突進してゆき、もしその心が神意に適うならば、
おのずと道は開けると考えているのです。
もし、神の真意が今の法皇にあるのなら、神のご加護がある限り、自分がどうあがこうと
絶対に暗殺できないはずだし、
また、双子をすり替えることも、もし天の意思に反するならば、フィリップは逆立ちしても
王位に就けはしない・・・・ということだ。
だから・・・・ということで決行するのですね。
アラミスは確かに陰謀を企てるのが得意ですが、
でもそこには、彼なりの大義があり、理想があってのことです。
ですからたとえば、「仮面ライダー」のショッカーの首領のように (笑)
全くの「悪」というわけではないのです。己の欲だけを満たせばよい、という
そういう我欲だけで動いているわけではないのですね。
10巻の中盤でアラミスの様子がどうもおかしい。
世の中に揉まれて生きてきたダルタニャンとアラミスは「すれかっらし」で「悪知恵」が働くというところでは、
よく似たところがあるのです。だからアラミスがなにか途方もない計画を立てているのではないか、と
ダルタニャンは直感で解っていました。
尋問するダルタニャンにアラミスはこう言います。
「ぼくは昔と同じように、君を愛している。
万一、ぼくがきみを警戒するとすれば、それは他人のせいではない。
ぼくはなにをしようときっと成功するだろうが、その暁には、きっと君を仲間に入れるよ。
君も同じことを約束してくれるだろう?な?」
それに対してダルタニャンはこう返します。
「おい、アラミス。我々はお互い敵じゃない、兄弟なんだ。
そういうところは、リシュリューやマザランにも通じるところでしょうか。
「善に強ければ悪にも強し」
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ただし、アラミスの思いは神意に適うことではありませんでした。
あっけなく、王位簒奪事件は頓挫。
絶体絶命の窮地に陥ってた財務大臣のフーケを味方につけ、
フィリップとルイをすり替えたものの、
フーケはルイに疎まれていると知りながら、アラミスのしでかしたことを
「神をも畏れぬ行為」だと面罵し、自らバスティーユに監禁されていたルイを助け出します。
フーケもアトスと同じように「王権神授説」の信奉者で、王位とは不可侵の神聖なものだと
考えていたようですね。
フーケはルイを助けたものの、この後王には一顧だにされず、代わりにコルベールが台頭してきます。
そういう青写真が見えていたのに、フーケは最後まで王に忠誠を尽くした忠臣なのですね。
いやはや、大したものです、ご苦労なことですね。
アラミスは大きなため息をついたことでしょう・・・。
水をも漏らさぬ計画だったのに、あっというまに崩壊するのを見て、アラミスは自分の負けを
悟ります。
そして、命からがら、フランスを脱出。
そして、スペインに亡命して、今度はアラメイダ公爵としてフランスとスペイン間の
関係を良好に保つよう東奔西走するのですが・・・。
しかし、友人三人は当の昔にこの世を去り、アラミスの過去の熱い友情を知り得るものは
誰もいません。
ある意味、一番長く生き抜いたアラミスは、もっとも厳しく寂しい人生を生き抜いた人でもあったのです。
信じるところを突き進んで、あと一歩というところで挫折したのですから。
きっと神意に適うはずという信念を抱きながら、それを天に否定されたのです。
しかも自分は一度は神に仕える身分であったというのに・・・・。
皮肉な設定ですね。
アトスが巧まずして神に愛される人であったのに対し
アラミスは相当の努力をしても、神に愛に適わなかった人です。
何やら、「カインとアベル」のような結末ですね。
聖書のルカによる福音書には「神を愛するに幼子のようにあれかし」とあります。
おのれの才能をのみ恃みにして、神と取引をするように、あるいは神を試すように接したアラミスは
天から見れば「小賢しい」の一言に尽きるのかもしれません。
しかし、天国の門をくぐった後できっとアラミスにはねぎらいの言葉はあっただだろうと思うのです。