漂白する魂、王冠を被らせられた野生児   カイゼリン・エリーザベト    [ちょっとした考察]

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最近、オーストリア、ハプスブルグ皇妃、エリザベートに関する展示が多いですね。

わたくしも、なんやかんやとオーストリア関係の本、読むことが多いです。

皇妃様はエリザベートとふつう表記されますけど、本当はエリーザベトと発音するのが

正しいようです。

だから、表記は今回、エリーザベトで・・・ 笑

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ま、ここでは幼少からのニック・ネームであるシシィで統一しましょうかね。

シシィは今でこそ、「ヨーロッパ一の美貌の持ち主」とか「ハプスブルグの美神」とか

褒め称えられていますけど、生前はあんまり評判はよくなかったんですよ。

皇帝のフランツ・ヨーゼフはなんていうのかな、

イメージとしては明治天皇のような感じで国民に人気があったのですが、

シシィのほうは年がら年中、ヨーロッパのあちこちを放浪している

エキセントリックな皇妃として有名で、一名「機関車皇后」とも呼ばれていました。

いつも「ここではない、どこかへ」と口ずさんでいたそうです。

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思うに、彼女は皇室とか王室とか女王とか

そういう儀式ばった、体面というか、人工的な形式というものに

一番縁が遠い人だったのだと思いますね。

シシィはこう、ウンディーネというかニンフというか

そういう何かの精のような人だったと思うのです。

生まれ育ったところが、湖のほとりのロマンティックな場所。

人によってはな~んてひとけのない寂しい場所だろうと思うでしょうね。

でも、シシィにとっては生まれ育ったその場所が一番落ち着いて、安心できた場所なのです。

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彼女のお父さんとお母さんは近親結婚でどっちもビッテルスバッハ家の人だったのです。

お母さんは本家の王女だったので、分家の公爵の家に嫁ぐのはイヤだったみたいです。

格下ですからね、公爵サマといっても。

他の姉妹たちはみな王家に嫁いでいますから。なんで自分だけがという不満があったみたいです。

お母さんは実は双子の妹でして、

片割れの姉のほうは・・・・実は未来の夫であるフランツ・ヨーゼフの母親なのですよ。

ね、びっくりびっくりでしょ~?

こんなに血が濃いんですよ。従兄弟同士の結婚といってもね。

脇道にそれましたが、

そんなわけで、お父さんもお母さんも美男美女でラブラブでもよさそうなのに、

はじめっから、めっちゃくちゃ夫婦仲は冷えてまして、

お父さんはお母さんと結婚する前に何人もの愛人をもっていて、しかも子供がいたので、

お昼は「自分のプライベートな家族」のほうを優先して、その人たちと一緒にすごす、ということでした。

・・・・お貴族サマの暮らしって、現代の庶民のわたくしたちには考えられないことが多いですね。

ただ、シシィにとってラッキーだったのは、

お父さんの公爵サマは、わりあいとリベラルな思想の持ち主で

もちろん、公爵という身分にしては、という前提なんだけど、

わりと彼女とお父さんとはウマがあっていたみたいで、

それが本来の彼女の長所を伸ばす一助にもなっていたみたいです。

シシィが公爵令嬢にあるまじき所業をしていても

別段目くじらを立てて怒るということはなかったらしい。

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で、当のシシィですが、彼女は小さい頃は「全く美しくない」と両親にも

周りの人にも思われていたんです。

本当の美女になる子って意外と小さい頃は可愛くなかったりするもんなんですが

彼女もどうもそのケースみたいですね。

だいたいにしてすごくやせっぽちで、子供らしいふくよかさっていうのに欠けていたらしい。

当然、シシィも自分が将来「絶世の美女」になるなんて夢にも思っていなかったでしょう。

でもね、彼女にしてみれば自分の顔が美しかろうと、そうじゃなかろうと、別にどうでもいいことだったんです。

彼女は一日中、自分の顔を鏡に映して

「アタシってカワイイ?」って媚びを売ってるような女の子じゃなかったんですから。

彼女は、父親譲りのアタマの良さと鋭い感性、そして高い身体能力もち、

そしてこれは彼女が持って生まれた先天的なものだと思うのですが、

ナイーヴでフラジャイルな気性の持ち主だったのです。

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彼女は美しい自然を見て、詩を書いたりするのが好きな少女で、

そして馬に疾走させて、髪を風になびかせながらそのスピード感を楽しむような

ちょっと一風変わった女の子でした。

やっぱり、ギリシャ神話の中のディアナかなんかのような、そんな感じがしますね。

一種の野生児だったんです。

彼女はたぶん、真珠や宝石で作られた宝飾品よりも

太陽に照らされてきらきらと輝いている川の石のほうがキレイだと感動するような人なのです。

そんな人がどうして、王宮生活やマナーなどになじめることができるでしょうか?

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彼女の悲劇は、姉のヘレナのお見合いの場所へ同乗してしまったことから始まります。

実は、母親同士、このお見合いは事前にお膳立てされていたのです。

ヘレナはもともと、フランツ・ヨーゼフへ嫁にやるつもりでたんと仕込まれた娘だったんですよね。

シシィは、さいしょっから問題外で、はっきりいって周りの大人からほうりっぱなしで育った子です。

両親からみれば、シシィなんぞは器量は悪いし、アタマもわるい、女の子のくせに日柄一日、

馬に乗りまわして、野山を駆け回っているはねっかえりだし・・・・。

でも、まぁあの子もたまにはかまってやって、世の中にはこういう華麗な世界もあるってことを

見せておいてもいいかもしれない、と思うのですね。

思えばそれが運のつきでした。

なんと、プリンスは宮廷にはゴロゴロいそうなヘレナタイプの女性は、食傷気味だったんでしょう。

そういうわけでシシィは新鮮だったんです。

人に媚びへつらったこともない、それでいて夢見るようなまなざしがとりわけ

フランツ・ヨーゼフの心を惹いたといわれています。

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そのときシシィわずか15歳ぐらいのことだといわれています。

物見遊山でキレイでしとやかな姉のあとについてきた、

イモ娘のほうが若い皇帝のハートを掴んだのですね。人生って皮肉なものです。

でも、シシィの兄弟姉妹ってお父さんとお母さんが美男美女なので、

どの人も遜色なくキレイなのですよ、実のところを言えば。

わたくしの目からみれば、二人とも実に容貌がよく似て、どちらもホンモノの美女です・・・。

いつもなら母親のいうことは絶対に従うフランツ・ヨーゼフはこの時ばかりは

自分の意思を押し通しました。

「絶対に、絶対に、シシィがいい」

「やめときなさい! あんなじゃじゃ馬の娘のどこがいいの!」

「いや、シシィは実に魅力的じゃないですか」

「フランツ、あの子はやめときなさい。皇妃という柄ではないですよ。

 将来、おまえが苦労します。それにシシィも皇妃になれば苦しみます」

とこのように散々諌めたのですが、効き目なし・・・・。

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こうやって、シシィは自分の意思とは関係なく、

皇帝フランツ・ヨーゼフに強く望まれて皇妃になる道を歩んでしまうのです。

シシィとすれば、若い皇帝からぜひに、とプロポーズされれば、女ですから当然悪い気はしなかったでしょうが、

従兄弟である皇帝には好意は抱いていただろうけど、

それはたぶん「恋」とか「愛」とかいうものではなかったろうと思います。 

彼女はまだまだ子供だったのですね。

皇妃になるということがどんなに大変なことか。

しかし、立場上、皇帝からのプロポーズは断ることができません・・・。

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こうやって、嫁入りしたのですが、人々がじろじろとシシィを見て

世慣れない彼女は疲労困憊してしまいます。

それに、結婚の本当の意味を全く知らなかった彼女は

夫婦生活を泣いて暴れて拒み続けたそうです。

そこらへんはモーパッサンの「女の一生」のジャンヌを彷彿とさせますね。

昔はたいてい、高貴な人の結婚というのは恋愛じゃない。でも、そういったものは焦らなくても

少しずつ夫その人にも慣れて夫婦間の情愛を育てて行けば、自然と成就するものなのです。

しかし、最悪なのはそういった夫婦間の実にプライベートな部分である絶対に人には見られたくない

場面をしっかりのぞいているおつきの人間がいるってことだったのです。

で、朝になると姑である皇太后ゾフィーの耳にちゃあんと昨晩のシシイの行状が知れていて

しっかりと「皇帝を満足してお慰めできなかった」といって叱責されちゃうのですね。

で、シシィの抵抗もむなしく、コトが成就できた朝、やっぱりそのことがショックで

彼女はベッドから起き上がることができない。

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皇帝はそんな彼女の繊細な心が理解できないので、さっさと自分だけ身支度をして、出て行ってしまう。

シシィは自分の身に起きたことがあんまりにも猛々しくて、恥ずかしくて、おつきの女官に

そっと「コーヒーを持ってきて頂戴」と嘆願する。

今日一日くらい、自分をそっとしておいてほしい・・・・・。当然ですよね。

しかし、宮中とはそういう身勝手は許されません。

ただちに朝の正装をなさって、朝餐のテーブルに着くように、と厳しいお達しが。

シシィにしてみれば、昨晩のことはみんなに知れ渡っているのです、そんなところに

みんなから興味津々の目つきでジロジロみられるのは、耐えがたいのです。

しかも、守ってくれるはずの夫はそばにはいない・・・・。

針のムシロ状態ですね、まさに。

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フランツ・ヨーゼフは決して悪い人間でもなく、

シシィを単なる一時の気まぐれで皇妃に選んだわけでもないのですが

小さいころから皇帝になる人間として躾けられ、帝王学を学んできた人間なのです。

これがアタリマエ、と思っている人には、

なかなかシシィの心情を理解することは難しかったのでしょうね。

宮廷のマナーはことのほか厳しく、二人が夜のベッド意外で親密にすることすら

許されなかったらしいのです。

宮殿のすぐそばに劇場があったのですが、そこへ夫婦連れだって歩くのも憚れるとのことで禁止。

フランツ・ヨーゼフは日中、執務室にこもって仕事をしていますから

そこへ皇妃といえども勝手に入ることは許されません。

ですから、少しでもいろんなことでお互いに理解しようと思っても、できない状態なのですね。

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まぁ、それでも若い二人には子供が次々と生まれるのですが、

これがまた、生まれたとたんにシシィは実の子供を抱かせてもらうこともできず、

ぜ~んぶ姑ゾフィーに取り上げられちゃうのです。

・・・・・なんか、ほとんど子供を産むためだけの道具ですよね、これじゃ。

長男のルドルフを産んだ後、彼女は自分の勤めは果たした、と思うのです。

しかも、当時の男にはよくあることなのですが、

皇帝も若いせいか女遊びが激しかったらしい。

潔癖なシシィはそのことが絶対に赦せなかった。

「どうして、そんな汚らわしいことを複数の女を相手にすることができるのですか?」

「据え膳食わぬの男の恥」とか「男の甲斐性」とかいっても

シシィは泣きながら、怒ります。

「陛下、わたくしは陛下の何なのでしょう?

 陛下はルドルフの母方の血筋としての可能性だけを考えられてわたくしと一緒になられたのですか?」

と、シシィはだんだんと心を病んでいくのです。

しかも、オーストリア・ハプスブルグ帝国は代々カトリックですので、

離婚することは許されません。

夫からの愛はすでになくなった。しかも、子供を産んだ後、自分は子供を育てることはおろか、

自由に会うことすらかなわない。

こうなった以上、わたくしには人間として何の存在価値があるというのだろう。

無価値・・・・。

このくびきから解放されるには、自分の死しか逃れる術はない。

シシィは思いつめます。

で、20歳の頃、心身の衰弱が激しくなって、本当に死にそうになるのです。

シシィは誰からも顧みられることもない、ウィーンの宮廷の中で死ぬのだけはいやでした。

死ぬにしろ、意地悪な好奇の目にさらされて死ぬのだけはいやだ。

ここではなく、どこか遠く、ひと目につかないところでひっそりと人生の幕をとじたい。

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ということで、彼女ははるか遠く、マデイラ島まで赴くのです。

そうとう心に受けた傷は深かったと見えます。

転地療養がウィーンでの重責を忘れさせてくれたのか、シシィはマデイラで健康になるのです。

マデイラ島は、イギリスの戦艦が必ず寄港するところでした。

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始めは気のせいかとおもっていたのですが、散歩をしている自分の姿をみるイギリスの兵隊の目が

なぜか熱く感じるのです。

それはウィーンで感じた嘲笑を含んだ眼差しとは、はっきりとちがっていました。

やがて、シシィはそのイギリス人たちの食い入るような視線の中に「賞賛」が入っていることを

はっきりと自覚するようになったのです。

イギリス人たちはまさか、こんな遠い島にウィーンの皇妃がいるなどとは知りません。

貴婦人には違いないだろうけど、もっと身分の軽い人だと思って

気楽に近づいて来ます。

「なんて美しいんだ、あなたは」

「こんなに美しい人はみたことがない」

「まるで何かの妖精のようだ」

としきりに賛辞を浴びせられ、ほとんど女神のように彼女の前に額づいている男たち。

シシィははっきりとこの時、悟ったのです。

美しさは力なのだと。

そして、自分はその美をもっているのだと。

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ウィーンへ帰ったシシィは昔の怯えておどおどした小娘ではありませんでした。

はっきりと自分の美しさを自覚した威厳ある皇妃です。

これまで、どこかシシィのことを軽く見ていたふしがなきにしもあらず、といった体の皇帝も

改めて神々しいまで美しくなった皇妃に、こんどは自分がひれ伏さなければならないことを

悟るのです。

こうやって、美しさの絶頂の自分にヴィンターハルターに描かせたのが、あの超有名なエーデルワイスを

象った髪飾りを付けた肖像画だといわれています。

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sadafusa

>nikiさま nice ありがとうございます!!
by sadafusa (2012-10-23 12:26) 

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