さくら考 [ちょっとした考察]

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渚の院にてさくらを見てよめる  在原業平

世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

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昨日、京都は昼過ぎからすごい空模様でした。

わたくしは、その日、夫が休日で一緒に映画を見に行く予定でしたが、

風邪をひいたのか頭が痛くて、取りやめたのです。

でも、小石ぐらいの大きなヒョウが降ってきたので

出かけなくてよかった。

夕方、学校から帰宅した娘は

「ヒョウが降ったのがさくらが咲く前で本当によかった」

と開口一番に申しました。

さすが芸術家、一番に考えることはそこなのね、と妙に感心したりして・・・・。

それはさておき、

日本人ほど、さくらの花に一喜一憂する民族はいないでしょう。

冒頭の業平の詩にもあるように、

とにかく、春はさくらのせいでやきもきさせられるのです。

それは、桜は咲いた、と思えば、あっという間に散ってしまうからですね。

なんだか、最近はそういうハラハラと桜吹雪を見るごとに

「もったいない」と思うのです。

潔いともいえるのかもしれないけれど。

でも、こういう現象って日本だけのようです。

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この間、チエーホフの「桜の園」を読んでいたら、

なんとロシアはマイナス5度で桜の花が咲くらしい。

そういえば、この間UPしていた早咲きの一条戻橋の桜も

エラく長いこと花が保っていたような気がします。

一節によれば、

農耕するときの目印としてさくらは非常に大切なものだったらしい。

昔の人はさくらの花の開花を目安にして、田植えの日というものを

決めていたそうです。

また、「さくら」という名前も「さ」が神で、「くら」が、馬の鞍、つまり座るところを意味し、

さくらは神様の座る場所、よりましの場所として神聖だったようですね。

それも、農耕民族日本人ならではの、感性だったのかもしれないです。

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さて、最後にわたくしの敬愛する加藤周一さんが作詞した

「さくら横丁」をご紹介しましょう。

春の宵 さくらが咲くと

花ばかり さくら横ちょう

想い出す 恋の昨日

君はもうここにゐないと

あぁ いつも 花の女王

ほほえんだ夢のふるさと

春の宵 さくらが咲くと

花ばかり さくら横ちょう

会い見るの時はなかろう

「そのごどう」「しばらくねぇ」と

言ったってはぢまらないと

心得て花でも見よう

春の宵 さくらが咲くと

花ばかり さくら横ちょう

センチメンタルな情感をかもしながら、それでも、妙にドライで達観した

感性はやはり、加藤周一ならではのものか、と思います。

この作詞の経緯はご自身の自伝にあたる「羊の詩」に詳しく書かれています。

これは加藤さんが通っていた渋谷近郊の小学校のそばの小道に咲いていた

桜の並木がモデルだそうで、そのとき加藤さんは

大人っぽい同級生の美少女に淡い恋心を抱いていたそうで・・・。

はつこい、でしょうか? 笑

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この詩には中田喜直と別宮貞雄の二人の作曲家が別々のメロディを付けています。

どちらもそれぞれにすばらしのですが、

華やかな作風でどなたにも好かれるのが中田さんのものなら

別宮さんのは、よく聞けばハバネラ形式で作曲されており、

フランスのエスプリが感じられる玄人ごのみの作風です。

これも、米良美一さんが同じCDの中でそれぞれのものを歌っておられますので、

聴き比べるのも一興かと思います。

うぐいす~ 米良美一 日本を歌う

うぐいす~ 米良美一 日本を歌う

  • アーティスト: 團伊玖磨,早坂文雄,林光,中田喜直,北原白秋,佐藤春夫,谷川俊太郎,加藤周一,小倉貴久子,バール(グニラ・フォン)
  • 出版社/メーカー: キング・インターナショナル
  • 発売日: 1997/07/16
  • メディア: CD



桜の花は日の光の中で見るのも神々しくて美しいけれど、

ぼんぼりの光に照らされて見る夜桜のあやしい魅力も

また捨てがたいものがあります。

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