男にとっての「かわいい女」  ~Cakes and Ale by W.somerset Maugham ~ [読書&映画]

最近、この自分のどうしようもない悪癖を直そうと努めていますが、

もうだいたい半世紀もこの状態で生きてきたんです。

治りませんね。

実はわたくし、読書するときは今までたいてい、自分の御蒲団に入って、掛布団をぐっと上に引っ張って

洞穴に入った状態で読むのが一番好きだったんです。

それで・・・これはダメだ。と思い、きちんと座って読むとか、

あるいはカウチソファに寝っころがっててでもいいから

蒲団から離れることにしよう、と思ったんですがやっぱりそうすると

かなり集中力がそがれちゃうんですね。なんだかついつい気が散っちゃって

ほかのことしちゃったりで・・・・どうも本が先に進みません。

で、「これはやっぱり、本を読むしかできないという、アノ状態に自分を持っていくのが一番なのではないか」

と思い、御蒲団に入って読むと、あら不思議、180ページもあったのに、二時間ぐらいで読めてしまったではないか。

習慣とは恐ろしいものです。

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すばらしく美しい本。

サマセット・モームの「お菓子と麦酒」

タイトルがとてもおいしそう、と思ってチョイスしたものです。

といって、モームのタイトルってわかるようなわからないようなモノが多いのですが。

(「お菓子と麦酒」というのはむこうの慣用句で「人生を楽しむためのもの」ぐらいの意味なんだそうです。

 ちなみに「月と六ペンス」は「月とスッポン」と同じ意味)

オハナシはこうです。舞台は20世紀初頭のイギリス。

主人公のアッシェンデンは作家。

ある日、やはり同業の作家のオルロイ・キアから電話がかかって来る。

このキアという人物の描写がまたなんともいえず、

その当時の英国のスノッブの典型みたいな人物でありまして

読みながら苦笑したくなってくる。

つまり、キアはなにか相手が自分に対してリワーディングでない限り、決して交渉を持とうとしない、

とってもそろばんずくな男なのです。まぁ、俗物なんですね。

自分が無償で人のためになろうとかそういうことを考えたこともない。

反対にいえば、人を利用することしか考えない、打算的なそういう男なんです。

アッシェンデンは、とうにそのことを見透かしており、

「やれやれ。ご苦労なことだ」と内心毒づく。

ここらへんのモームの辛辣さっていうのが、本当に鋭くて胸がすく思いです。

だから、キアから連絡があるということは、とりもなおさずそれは

なにか魂胆があってのこと、としか考えられない。

で、結局キアはちょっと前に亡くなった、エドワード・ドリッフィールドの伝記を書きたいと思うから

協力してくれないか、というものでした。

それも、世間的に文豪として名の高いドリッフィールドの伝記を執筆すれば己にも箔がつくと考えてのこと。

それで、亡くなったドリッフィールドと同郷で、人生のきわめて若い時期にかなり親しく

付き合った時期があったアッシェンデンに昔のことを教えてほしいということだった。

しかし、当時結婚していた最初の妻のロウジーというのが、なんと言おうか、

世間ではきわめて評判の悪い女で

人妻でありながら数々の男と関係を持ち、

あろうことか、最後にはドリッフィールドを捨てて、破産した男とアメリカへ高飛びしたのだった。

キアはもちろんこんな下品な女のことは書きたくもないはずなのだが、

伝記だし、そこだけはしょって書くわけにもいかず、ロウジーのことをよく知っている

アッシェンデンに当時のことを教えてほしい、と頼まれたのだ。

どうして、キアは自分のこととなったら、こうも厚顔無恥に頼みごとができるのか・・・・・。

アッシェンデンは呆れながらも、どう話していいものか困ってしまう。

実は、アッシェンデンはロウジーが関係した男たちの中の一人だったのだ。

じゃあ、ロウジーはメッサリーナ型の淫乱な女なのか、といえばぜんぜんそうじゃない。

ロウジーは下層階級の出身で、教養が全くないし、世間の常識もまったくわきまえていない女だったが、

男にしたら、「可愛くて可愛くて、ぎゅっと抱きしめずにはいられない」

そんな魅力があったのだ。

具体的にいうと、そうだなぁ~。マリリン・モンローみたいな感じ?

イノセントでフラジャイル。

人の傷ついた心にはとても敏感。

だからその人を慰めてあげたい、幸せにしてあげたい。

ロウジーの気持ちはただそれだけ。

いつものようにロウジーの弟分として芝居につきあった後、アッシェンデンは

不覚にもロウジーの前で泣いてしまった・・・。

「まあ?どうしたの?どうしたの?ねぇ、泣かないで、泣かないでったら」

と慰めているうちに・・・・・。

こんなふうに彼女はどんな男とでも、捨て猫を抱えて寝るように、関係を持ってしまう。

でも、ロウジーにすれば、それは不貞とか、裏切りとか、そういう世間の尺度で測れるものとは

無縁の感情。

彼女にすれば男女間の抱擁なんてものは、落ち込んでいたり、悲しい気分でいるときに

慰めて、楽しい気分にリセットしてくれる便利なツールにしかすぎない。

お話の終盤になってキアとドリッフィールドの後妻が、いっしょになってロウジーのことを

くそみそにけなす。

「屈強な田舎娘といった感じですね」

「乳搾り女のタイプがお好きならばね」

「わたしは前からこの女は白人と黒人の混血児のようだとも思っていました」

そういう彼らにアッシェンデンはこういって応酬する。

「彼女は菱明のように清らかでした。

 彼女は青春の女神のようでした。

 彼女はこうしんばらのようでした。」と。

すると、キアとドリッフィールド夫人は、悪い冗談だとばかりアッシェンデンを小馬鹿にしたような顔をした。

「まぁ、アッシェンデンさん、少しお口が過ぎやしませんかしら。

 ともかく事実は事実として見なければなりませんわ。あの女は色情狂いでしたものね」

アッシェンデンはついにキレて

「あなたにはお解りにならないのです。

 彼女は非常に単純な女だったのです。彼女の本能は健康で、全然けれんというものが

 ありませんでした。彼女は人を幸福にすることが大好きでした。

 彼女は愛を愛したのです」

「彼女はたとえて言うと林間の清らかな池のようなもので、その中へ飛び込んで

 水浴するのは何とも言えず楽しいことですが、それはあなたよりも先に放浪者や、ジプシーや

 猟場の番人が飛び込んで水を浴びたとしても、その冷たさ、清らかさには何の変りもないのに似ています」

こういったところで、イギリス的偽善そのものといった二人は、アッシェンデンの言いぐさに

顔を見合わせて、あきれ果てたバカ男だと、嘆息するばかり。

・・・・わかんないんでしょうねぇ。目先の欲にばかりにとらわれている人は。

こういう人は、小さいことばかりを気にして、大局を見据えられないんですヨ。

いわゆる、木を見て森を見ずってやつですかネ?

しかも、アッシェンデンはふたりに隠していたことがあった。

実はとっくの昔に「死んだ」といわれていたロウジーがいまもピンピンして元気で暮らしているということを・・・。

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モームのロウジーの美しさの描写が見事です。

「どこからどこまでも金色だろう。顔だって。髪だって。ところが全体の感じは決して金色じゃない。

 むしろ銀色なんだ」

彼女は光を放つのだが、その光は白く、太陽よりは月の感じだった。

もし太陽だとすれば、白い朝霧を通してみた太陽の感じだった。

ねっ?ロウジーの優しい美しさが余すところなく表現されていると思いませんか。

そういえば、このおおらかさ、このイノセントさ、この打算のなさは

昨日書いた、ポルトスと共通するものがありますね。

こういう優しさというものは、男性に現れるとポルトスのような男らしい茶目っ気、

女性に現れるとするならばロウジーのような可愛さになるのでしょうか。

それが俗にいう人を惹きつけて止まない「色気」の正体なのかもね。

結局、アッシェンデンはキアと後妻さんには、亡くなったドリッフィールドが

どんなにロウジーを愛していたかということは

(おそらく死ぬまでロウジーのことを愛していただろう。後妻じゃなくて)

教えてやらなかったのでした。

たとえ教えてやっても、必死になって否定するだけだしね☆


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でん子

うつぶせって事ですよね、私仰向けじゃないとダメなんです(笑)大体面白い本って分厚くて重いじゃないですか[exclamation]良くそんな格好で読めるなって夫に言われるんですけど…慣れた格好が一番捗るので止められません
by でん子 (2012-05-06 21:13) 

sadafusa

>suzuranさま niceありがとうございます。

>でん子さま
  いいえ、うつぶせではありません。仰向けでもないですけど。
  横になって、本を半分もって枕をカオの横にあてて
  蒲団を引き上げて読むんです・・・・。
  うつ伏せもあおむけも、長時間は苦しい。
  でも、半分しか持たないけど、重い本は疲れる~~
  (基本、借りる本は文庫ですね)

  ホント、慣れたポーズでしか読めないってことわかりました。
by sadafusa (2012-05-06 22:35) 

sadafusa

>月夜のうずのしゅげさま niceありがとうございます!
by sadafusa (2012-05-12 20:06) 

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