ダメダメなようで、実はけっこうしたたか、かも。 ~和菓子のアン~ [読書&映画]
さてと、連日、ドフトエフスキーとかトルストイとか
ロシアの厚い雪にと出されたような、重厚なテーマの本ばかり読んでましたが、
さすがに飽きた(ー_ー)!!
もう、「生きるとは」「人生とは」「秩序とは」「神は存在するか」とか
どうでもいいです。
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ということでかる~く、オイシイお話が読みたい。
読書メーターでは常にトップにいたこのお話、実は夫サマが買って読んでおられましたので
ちょっと拝借いたしました。
「和菓子のアン」ですね。
主人公は「食べることが大好きな」18歳のちょっと太目の女の子、
梅本杏子です。
彼女は、勉強とか努力がキラぁい。なので、別に進学しようという意思もなく、
かといって、昨今のすさまじい就職戦線に乗り出すわけでもなく、
なんとな~く、デパ地下のある老舗和菓子店の売り子になるのでありました。
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このお話のウリはですね、和菓子にちょっとだけ詳しくなれるってことでしょうか。
わたくし、今住んでいるところ、老舗の京和菓子店の激戦地区にありまして、
ちょっと歩けば「鶴屋吉信」「虎屋」「塩芳軒」「玉壽軒」・・・・・。ちょっと北野さんのほうへいけば「老松」とか。
あと少し北のほうへ行けば粽で有名な「川端道喜」。
あそこの粽ってめちゃくちゃ高いけど、粽を包んでいる熊笹にめちゃくちゃこだわりがあるらしい。
超有名和菓子屋さんばっかり!ざっと思い出すだけでもこんなにたくさん。妍を競うように乱立している。
こういうところの上生菓子ってお正月にお茶会で食される
「おはなびら」こと「花びらもち」なんかだとな~んと一個1500円ぐらいしちゃうんですよ。
でもね、我々お菓子のことに精通していないものから見たら、
な~んて高い!と思われるかもしれないけど、
それも故ないことではないんです。
うちの息子が中学生だったころ、「なんでも体験学習」っていうのがあって、
ちょっとしたインターンみたいなのに、「虎屋さん」が受け入れてくださったんですね。
そこで起こったことを息子からあれこれ、と聞いていると本当に気の遠くなるような
細かい工程、そしてちょっとのミスでもはねられる厳しい品質検査を経て、
店頭にあのキレイなお菓子が並ぶわけですよ。
で、たぶんうちの子は虎屋さんの大変なご厚意だと思うんですが、
ご褒美として、店頭に並べられなかった紅白最中とか羊羹なんかをたくさん、たくさんもらってきていた。
本当にありがとうございます、虎屋さん。
「これ、ココが傷ついているやろ?だから商品にならへんのやて」と息子がコレコレと指差しますが、
母は皆目わからない。あ~、もったいないとは思うけど、
天下の「虎屋」たるもの、プライドにかけてそんな半端な商品は売れないってことなんでしょうね。
老舗の気概を感じました。
また、あるとき娘が日仏会館でフランス語習っていたとき、
やっぱり生徒さんの中に和菓子の職人さんがいらっしゃって、学んでいる理由を聞くと
「フランスのお菓子のエスプリを学ぶため」に渡仏するから、その準備とのことでした。
やはり、日本の京都だから、老舗だから、ってそこでふんぞり返っていられるほど
世の中甘くないんですね。甘いお菓子の世界でも。
おまけに茶道の家元である、表千家、裏千家、武者小路千家など
家のすぐそばにあります。
とにかく、なんかの薀蓄を聞こうと思えば、京都ぐらいそういうの、しゃべりたくて
うずうずしている人が潜在的にいるところってないだろうから、
ひとこと「お願いします!」な~んていった日には
「このアンは〇〇産の〇〇豆を使い、それを職人が〇日かけて、〇まるしながら炊き
そして、どうの、こうの、どうの、こうの」
ず~っとしゃべくってますわ。
確かに、日本のお菓子は細工も美しく、詫びた茶室で食べるとなおのこと、いっそう
そのはかなくも小さいお菓子に美しさが凝縮されているように思えて、
ただ、菓子を食べ、茶を飲むという、些末なこともとんでもなく美しい行為をしているのでなないか、
という高揚感があるのは確かかもね。
とにかく、日本人は昔から「見立て」ってことが大変上手で、
ちょっとした記号でもその奥を読み取って真の意味するところを知ることが、
教養ある文人である証拠でもあったし、まぁ、文人だけでなく、下手すれば横丁の八っつぁんや熊さんも
知っていたことだったのかも。
でも、そういうのは京都の余所行きの部分。
普段は京都の人は「おまん」(まんじゅう)とか、そういう肩のはらなくて
安くておいしいお菓子を食べてます。
京都ってこういう上生菓子ばかりを扱う専門店と
カジュアルで安くておいしい普段使いのお菓子を売る店は別なんです。
(「みつや」は一緒に売ってましたね)
ひっそりとしていて、看板もでてなさそうで、うっかりすると見過ごしてしまいそうな
小さな小さなお団子屋さんが、観光客は絶対に知りえない
地元では知る人ぞ知る「名店」だったりもします。
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さて、杏子と言う名前はクン読みすると「アンコ」になるという
同じみつやで働いている同僚の立花さんがいうので
杏子は「アンちゃん」という、可愛いニックネームをもらう。
実はね、最近、娘が就活していてなかなか決まらなくてやっとめでたく決まったものだから、
この話に出てくるアンのように「努力もせず」「目的もなく」、もちろん就活もせずに
安易にデパ地下の和菓子屋でバイトする子のことを
なんか反感もって読んでいたのだけれど、
反対に、こういう「何ができなくとも、食べることに対しては、誰よりも熱意があります」
みたいな子こそ、21世紀を担う人材かもしれない、とか思って。
アンちゃんの舌はとてつもなく、鋭い。
「安い!」と思って買ったクッキーを食べると、バターの代わりにショートニングかマーガリンが入っている!
バター本来のふくよかさがないっ!すぐにピピンと来るんですよ。
いくら見栄えをよくしてもアンちゃんの舌はすぐに真実を見抜いてしまうのデシタ。
温故知新で古いことも、知るように勉強し、和菓子だけの世界で安住することもなく、
また、あるいはたまには洋菓子と和菓子について、深く思いを巡らせることもする。
すばらしい!トレビアン!ですよ。
まさにお菓子の伯楽といいたい。
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きっとアンちゃんは5年後にはみつやのれっきとした社員になっているかもしれないし、
立花さんの師匠のところへ行って、和菓子修行しているかもしれない。
きっとアンちゃんはイケメンの立花さんのハートを掴んでいるので、
彼の方から「結婚してくれ!」ってプロポーズがきそう。
そう、アンちゃんはなかなかエッジの効いた秀逸な人材なんですよ。
そう、椿店長みたいに。