貶められた天才    米良美一 [芸術]


天使の声 生きながら生まれ変わる

天使の声 生きながら生まれ変わる

  • 作者: 米良 美一
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 単行本



うぐいす~ 米良美一 日本を歌う

うぐいす~ 米良美一 日本を歌う

  • アーティスト: 團伊玖磨,早坂文雄,林光,中田喜直,北原白秋,佐藤春夫,谷川俊太郎,加藤周一,小倉貴久子,バール(グニラ・フォン)
  • 出版社/メーカー: キング・インターナショナル
  • 発売日: 1997/07/16
  • メディア: CD

米良さんは「もののけ姫」で一世を風靡しましたが、

なんとなく世の中から不当なほどキワモノ的扱いをされている人だと思います。

しかしわたくしは、やはり「天才の中の天才」だと考えています。

彼の声は高低自在です。

しかも女声にありがちな高音になるとヒステリックに響き勝ちなことも

まったくなく、繊細にやわらかく響きます。

低音はやはり深く艶のある響きで、ビロードのようです。

彼はつまり、「神の声」をもっているのです。



米良 美一「バロック・アリア集」

米良 美一「バロック・アリア集」

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Bis
  • メディア: CD

このバロックアリア集など、わたくしの好みどんぴしゃ、だからなのかもしれませんが、

もう何百回と聞きましたけれど、聞くたびにその声の美しさ、

どんな難しい箇所でもやすやすとこなしてしまう素晴らしい技巧、

そしてそればかりでなく、

どんなに練習をしてもこればかりは

絶対に培うことができない情感の豊かさ、表現力があります。

バロックは耳に聞くには本当に心地よい音楽なのですが、曲のタイトルをみると

「さあ罪にあらがうがいい」とか「みだらな罪の姿は」とか「罪を犯すものは悪魔の身内だ」とか

甘美なメロディからは想像できない、厳しい内容のようです。

このアルバムはどれも超がつく素晴らしいものばかりですが、

その中でも特に気に入っているのは、13番、JSバッハの二重唱、

「私の神にあって」です。

米良さんはこのとき、アルトを歌っておられますが、もうひとり、テノールパートの方との

ハーモニーが絶妙なんです。お互いに引き立て合っているというか・・・・。

対して、日本の歌曲ばかり集めた「うぐひす」もこれまた、最高の出来です。

この録音は北欧でされた、とのことですが、うぐひすを歌っていたとき、

どこらともなく、スタジオに鳥たちがいっぱい集まってきた、というエピソードは

ほとんど感動的ですらあります。

やはり、日本人ですので、日本人ならではの独特の情感とか詩情なども

本当に美しく表現できていると思います。

武光徹などの超絶技巧な曲も

いともやすやすとこなして、しかも聞く人に圧倒的な感動を与える人を

天才、とよばずしてなんと呼ぼう?

ただし、彼の自叙伝を読めば、米良さん自身は宮崎の山奥で生まれ、

しかも不治の難病を抱えながら育ち、

苦悩と共に育った人です。

まったく、芸術はおろかクラシック音楽からも遠く隔てた家庭環境だったのに、

物心ついたときから「歌うことがすき」という神の恩寵を与えられ、

出るべくして出た天才だった、ということがご自身の著書を読むとわかります。

「もののけ姫」でフィーバーしたとき、

あまりの世間の熱狂ぶりに

だいぶ無理をされて、体を壊して長らくリハビリしておられたのだそうです。

それと、「カウンター・テナー」という領域は日本では、なにかキワモノにみられて

かなり、バッシングにあったそうです。ただし、日本ではそうでも、

欧米ではカウンター・テナーは当たり前にありますし、偏見もありません。

まだ、お若いのですから、今後のご活躍を期待したいと思います。



黄昏の風景の画家  Henri Le Sidaner [芸術]

シダネル.png

今日は夫といっしょに

京都駅の中に入っている伊勢丹の美術館「えき」で

アンリ・ル・シダネル展を見に行きました。

う~~、みたことあるような、ないようなぁ~。

みたいな印象の人です。

いっちゃえば、印象派のような、ラファエル前派のような、シスレーのような・・・・

みたいな画家です。

全体にモネのような圧倒的な筆触がなく、どことなくうす~~い印象ですかね。

彼の先生は、アカデミック・ポルノ「ヴィーナスの誕生」で当代きってのフランス画壇の

大家のカバネル。

カバネル.png

 当時は意味もなく女性の裸を描くのはありえなかった。

描くとすれば、必ず神話か歴史画などの大義名分が必要だったのです。

カバネルのこの絵はほとんど、ポルノに近いけど、それでもヴィーナスなのだから、ということで

世間が許したんです・・・・・。なんか変なの・・・・。

でも、シダネルさんは、アカデミックな方向とは袂を分かったのでしょうね。

彼の絵は風景画とか静物画などがメインなのですが、

描かれた時間帯が夕方から夜、ってところが、特徴ですね。

黄昏どきは「逢魔がどき」ともいいまして、魅力的だけど、少し悪魔っぽい時間でもあります。

そういうところがすきなのは、たぶんこの時代にはやった象徴主義などの影響なのかもしれません。

でもまぁ、幻想を描いたわけではないから象徴主義の画家とはいえず、

分類するとアンティミストの画家ということになるそうです。

imagesCAQEIWBF.jpg

彼の描く絵には、つい先ほどまで、そこに人が座っていただろうという、気配は感じるものの、

実際には誰もそこにはいないのです。

不思議な静けさ。

imagesCAAWCA0Y.jpg

中にはマネの「草上の昼餐」の人々が画面から去ってしまったと思わせるような絵まであって

面白いです。

彼が世間一般に有名なのは、モネにとってのジベルニーのように、

シダネルもジェルブロワという村を題材にしたからなんだそうです。

ジェルブロワ.pngジェルブロワ2.png

ジェルブロワは今でも美しいバラの咲き誇る村として有名なんだそうですが、

戦争で荒れ果てていた廃村をここまでにしたのは、シダネルの功績なんだそうです。

へぇ~、ですね。

たしかに、よく知られているモネなどの絵から比べると色調も弱く、ダイナミックさに欠けるとはいえ、

繊細な彩はまた、なんともいえない味わいがあります。

雪景色.png

imagesCAK481HS.jpg

幻幻想的な夜の景色が美しいのが特徴

街灯に照らされて濡れたように光る街路

image10337_2.jpg

自然光ではなく夜のともしびに反射する川面。

余談ですが、「月の光」で有名なドビュッシーは

印象派と関連があるのかといえば、さにあらず。

彼自身は象徴派に傾倒していたのです。

時代的にも同世代みたいですし、

彼らが夢見ていたものって意外と共通していたかもしれない、

と思うと興味深いですね。

imagesCATKE6KP.jpg

これは今回、うちのお花のお教室の浦沢先生が

この展覧会をイメージしてディスプレイしたものだそうです。

入り口に置いてあります。


Bach Violin and Voice [芸術]


Violin & Voice

Violin & Voice

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2010/01/12
  • メディア: CD

先日、ヒラリー・ハーンさんのお話がでたので、今日はこのアルバムをご紹介します。

ジャケが大変気に入っております。

特に、ソプラノのクリスティーネ・シェーファーさんのコスチュームがとてもステキです。

 ロココ時代の貴婦人のように広がった袖なのに、とても現代的。

最近、姿はバロック調だったり、ロココ調だったり

つまり、伝統を踏襲しているのに、素材がガラスだとか、プラスチックだったりするものに

非常に惹かれます。

このコスチュームもちょうど、そんな感じ。

ジャケットの中の解説にも写真が載っていて、この服も非常におしゃれ。

クリスティーネ・シェーファー.jpg

胸のところが扇がさかさまにしたデザイン。

でもって、胸が非常に深く刳られていますね。

日本の歌手さんも最近はおしゃれだけど、

こういうのはヨーロッパの人にはかなわないような気がしますね。

加えて、これ、カラーじゃないのがいいのね。

あと、ハーンさんが非常にドイツ的な古典的美女なこと。

クラーナッハを思い出させます。

とかなんとかいって、じゃ、中身がどうなの?って感じですけど、

これがまた、いいんですよぉ。

バリトンのマティアス・ゲルネさんがこれがまた美声なのです。

テノールの甘い響きとはまた別なふか~~い真紅のベルベットのような感触ですかね。

聴いていると非常に癒される感じがします。

で、前述したシェーファーさんも非常に落ち着いたソプラノです。

わたくしの好みなんだろうけど、バロック音楽、特にこの時期の声楽がとてもすきなのですね。

ピアノだったら、ロマン派以降がいいんだけれど、

声楽はこの時代がとても惹かれる。

このアルバムはハーンさんは伴奏に回っているわけですが、

地味な役どころながら、非常にしっとりといい感じです。

なにもかもがパーフェクト!

とてもおすすめなCDです。

午後の三時のお茶の時間にぴったりです。

そのときはぜひ、とっておきのカップに香りのいい紅茶とフィナンシェをどうぞ・・・・・!!



天才としかいいようがない  ~ラン・ラン~ [芸術]


ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番


ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

  • アーティスト: ラフマニノフ,ゲルギエフ(ワレリー),ラン・ラン,マリインスキー劇場管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2007/09/05
  • メディア: CD



ラン・ラン ライブ イン ウィーン

ただ今、持っているのはこの三枚だけかな~???

ランランって面白い人ですよね~。

この人を思い出すと、すぐに「北京ヴァイオリン」を連想してしまいます。

世界のどんなド僻地に住んでいようが、天才というものは

おのずと見出されてしまう・・・。

凡人の一年の努力など天才の一日にも適わない。

ああ~、サリエリじゃないけど、天才の前には凡人は無力です。

そりゃ、ピアニストになるときはすさまじい訓練が必要なんだろうとは

思います・・・・。ですが、絶対に努力だけではどうにもならない、すごい才能がなきゃ、

できないんだろうなぁ、と思います。

意外と一流のピアニストって、アメリカやヨーロッパとかロシアだけでなく、

南米にも多かったりするのって、やっぱりそういう理由なのかな~などど思います。

わたくしのランランについての音楽を真剣に聞くまでの印象って・・・ 

演奏を聴く前にあのカオが・・・・カオがおかしすぎる。

イヤ、ランラン、結構ハンサムだと思いますよ。ふつうにしていたら。

だけど、youtubeで演奏しているときの顔をみてたら、

完全にいっちゃっているカオなんです。

うん、ヘン顔の人っていうイメージしかなかった。

それが気になって演奏を真剣に聞いていませんでした。

でもでも、「のだめ」の吹き替えのCD買ってみると

結構、すごいんですよ。

派手なプレイはもちろんそうだけど、繊細だし、キレがあるし

すごいことをいとも楽々とやりのけてしまう。

音の粒もなんていうのか、キラキラみんな光ってこぼれているようなカンジ。

フジコ・ヘミングが琥珀色の黄昏を感じさせるプレイヤーなら、

ランランは朝の光の洪水ですかね~。

のだめの吹き替え版はショパンのピアノ協奏曲を多少、ドラマチックというか

重々しく弾いていましたけど、自分自身のときの演奏のときは

もうちょっと軽いかな~。うん、もうちょっと理性的なカンジ。

わたしは同じショパンのものでツィマーマンのももっているんだけど、

だんぜんこっちのほうが好きなんですよね。

曲の後半で、どんどん盛り上がっていくところが

この人な弾くとなぜかとても、色っぽく感じてしまう・・・・

クラシック音楽を聴いて「セクシー」って思うのもなんだかな・・・と思わないでもないですが、

音に艶があるのはランランの持って生まれたものだろうし、

またそういうふうにドラマティックに曲想をもっていくのが得意な人なんでしょうね。

ただ、とてもパワフルな演奏なので、元気なときには聞きますが、

しんどい時は聞きません、というか、聞けない人ですね。

とはいえ、一時は同じ曲を一か月以上聞き続けていたこともあります。

とても好きなピアニストのひとりです。





心に沁みるおと   ~フジコ・ヘミング~ [芸術]


憂愁のノクターン(K2HD)

憂愁のノクターン(K2HD)

  • アーティスト: フジ子・ヘミング,ショパン,シューベルト,ブラームス,リスト,ドビュッシー
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2005/12/16
  • メディア: CD
 最近、精神的にへこむことが多いです。はぁ~
 そういうとき、わたくしはフジコ・ヘミングのCDを聞くことが多いです。
 フジコさんは毀誉褒貶がとても多い人なのですよね。

 彼女のコンサートへいったことあるけど、たしかにミスタッチが多いんですよね。

 だけど、彼女の良さとはそういう正確さにあるんじゃなく、やっぱりハートかなぁ。

 彼女のピアノは一昔前のヴィルトォーゾの香りがする。

 大きなコンサート会場より、美しい絹張りのサロンが、

 人々の喧騒より、さんざめくひそやかなためいきのほうが

 彼女のピアノには似つかわしい。

 繊細で、ひそやかで、淡くて、ロマンティック。

 彼女の音は、ろうそくの光にきらめくシャンデリア。

 マントルピースに飾られた芍薬やリラの花。

 このアルバムはどの曲も好きだけど、

 一番すきなのがショパンのエチュード「革命」

 この曲は、これみよがしに派手に弾く人が多いけど

 そういうスタイルは好きじゃない。

 これは「革命」ってついているけど

 心に葛藤を持っている人の内面を描いているような気がする。

 とても、内向的でつらい運命を静かに耐え忍んでいるような

 そんな演奏・・・・。

 わたくしは、ほかにも好きなプレイヤーはたくさんいるけれど、

 そしても、もっともっと超絶技巧ができる華やかなタッチの人もしっているけれど、

 ベルエポックのころの貴婦人の衣擦れの音がするような彼女のピアノが一番すきかも・・・。




アカデミック・ポルノ? レディ・ゴダイヴァ [芸術]

 

4ce7a18e6c90576bef6a3179b40f2629.jpg

 花も恥じらうような乙女を描いたジョン・コリアの作品。

日本では、ヴァレンタインデーといえばチョコレートですよね?

わたくし、最近はローカーボ・チョコしかお口に入れられないので

ちょっとさびしい思いしてます。

今だったら、アナタ、デル・レイ、ノイハウス、ヴィタメールなどなど。

それこそ世界中のショコラティエが百花繚乱・・・

でも、チョイ昔まではチョコレートといえば、

ゴディヴァが世の中にハバを効かせていたものでしたのよ。

ところで、ゴディヴァの名前の由来ってタイテーの人は知っていますよね?

イマサラ感が強いので、さらっと申し上げると、

昔イギリスにレディ・ゴディヴァというたいそう情け深い領主夫人がおりました。

しかし、領主である夫は、領民から重い重税をとりたてており、

レディは思い煩う日々。

 Leighton-Lady_Godiva.jpg

 レディは夫に圧政から住民を解放するよう願い出る

そこで

「殿、おねがいでございます。どうぞ、これ以上御取立をおやめくださいまし」

「ええい、やかましい。女は黙っておれ!」

「どうぞ、このとおりでございます」

「う~む、それほどいうなら。だが、条件がある」

「それは何でございましょう」

「街の隅から隅まで隈なく馬に乗って廻るのだ。ただし、素っ裸でだ」

「ええ?」

という会話がなされたのかどうかは知りませんが、

情け深いレディは恥ずかしさをこらえ、領民のため

決行。ま~、なんてすばらしい美徳の鑑ですこと!

imagesCAPJHX34.jpg

 これはどういうシーンなんでしょうねぇ?

まぁそういう話なのですが。

 

・・・・でもさ、穿って考えれば、夫さまの美しい妻を

人々に密かに盗み見せたいという後ろ暗い欲望が

あったのかも。

あるいは、そういう恥ずかしいことをさせて喜ぶ

S的な趣向があって、妻は妻でM的なところが

あるのかも?

と妄想はどんどん広がっていくわけです(笑)

 

 

 imagesCAKLHPNY.jpg

 伯爵夫人だったらこれくらい毅然として馬にのったかも・・・

 

imagesCA1ONB44.jpg

どうでもいいことですが、かのカトリーヌ・メディシスが考案した

アマゾネスという乗り方はこうだったのでしょうか?

・・・・・・

私が思うに、こういう題材って、

本当は当時の画家のスケベ心をあおる題材だったのでしょうねぇ。

この頃は、ムダに裸をかいてはならず、

今にして思えばナンてこともないマネの「オランピア」や「草上の昼食」が

大スキャンダルになったのです。

やはり、ハダカを描くには大義名分が絶対に必要で

神話か、歴史かそういうテーマが必要だったのです。

だから、ヌードもたいていが女神サマか殉教者か、あるいはレディ・ゴダイヴァのような

歴史上の偉人だったのですね。

 

こういう歴史画はたいてい、うら若くて美目麗しい女性を描くのが常套手段です。

それでこそ、ピーピング・トムのようなデバガメ男が出現するわけですが

そうじゃない場合は、価値が半減(それ以下)するのです。

 

ladies silly girls.jpg

向こうにはレディ・ゴダイヴァ・コンクールというのがあるらしいです。

でも、こういうふうになると味もそっけもないですね・・・・

現実になるとなかなかモデルや女優のようにはいきません。

お風呂やさんにいるようです・・・・・

太古ギリシャでは美しい裸というのはカミサマの領分だったそうです。

美しいということに価値があった。だからカノンやら黄金分割などという

思想も広がった。

やはり絵画は人の夢やあこがれを表現するに限りますね。


nice!(1)  トラックバック(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。